いささか僭越な言い方を許していただければ、メディアは精一杯のことをしたのだと思う。地震や津波の被害状況が刻々と明らかになるのと同時並行で深刻さが増していった福島第一原発の事故の両方を、数日間ぶっ通しで報道し、復興や原発事故の後始末を、うすれゆく関心の中でニュースにし続けてきたのだから。

しかし、インタビューの中で当然のように語られていた今の「メディアの常識」では、被災地の人々が必要としていた情報を伝え切れてはいなかったのも事実である。ヒアリングで発見された特徴は大きく分けて、以下の3点である。

1 大津波からの緊急避難についての詳細さ、雄弁さ、それと比較して、原発事故に関して問題点の抽出や分析の不十分さ

各社3時間近くに及ぶロングインタビューでも、問題点は多岐にわたり全てを聞き出すのは困難であった。津波については緊急避難速報態勢に素早く移行する態勢づくりや、避難メッセージ、被害の全容をつかむための苦労などの反省は具体的であるのに比べ、原発事故については、取材者の安全確保の基準や、原発そのものの存廃についての見解が各社でまちまちなこともあり、一部メディアは具体的に説明することに消極的であった。これは、まず地震津波から原発事故へと時系列的に質問を重ねていった私たちの側にも責任があろう。

2 従来のプラットフォームへの固執、各地の詳細な被害の情報、住民の安否、避難所、救援物資など地元の住⺠が切実に必要としていたハイパーローカルな情報を届ける意識の希薄さ

市町村、あるいはもっと小さな集落単位の被災や避難に関する情報を伝えるには、従来のメディアでは限界があることも明らかになった。新聞紙面では情報量が限られており、テレビやラジオでは欲しい情報が、いつ伝えられるかわからない。しかし、スマートフォンなどを使い、地図情報と連動したサービスなどが本格的に検討されている形跡は確認できなかった。情報の需要とメディアの情報に決定的なミスマッチが生じている。 新聞社のインタビューでは、大きな災害時のBCP(Business Continuity Plan:業務の継続計画)を問うと、ほとんどの社が輪転機の確保について真っ先に言及したのが印象的であった。

3 NHKと⺠放ネットワークの圧倒的な実力差

マンパワーは特にローカル局では大きな開きがある。アナウンサーや記者のスキルも、普段から多く のローカル番組でトレーニングを積む機会に恵まれているNHKははるかに人材豊富である。定点観測カメラや中継車などの機材の数や装備の質でも圧倒的な開きがある。 また、そもそもの放送形態の違いも大きい。通常の番組から緊急災害報道の特別番組に移行する際に、CMがある⺠放は簡略化しても社内やネットワーク内での連絡調整手続きが欠かせず、時間がかかってしまう。マンパワーとも密接に関わるが、特別番組を⻑時間運用する社内態勢も、NHKの準備はかなり進んでいる。 わが国は、地震や津波だけでも、南海トラフや関東直下などの将来起こる可能性が高い大災害に備えなければならない。具体的な処方箋などの提言は、追って別の場で詳しく議論していきたい。